自宅に住み続けながら、不動産を売却することができるリースバック取引が近年増加しています。
一般的な不動産売却と異なり、リースバックは売却後に賃貸することになります。
そのため、リースバック契約では賃借人として住み続けることができるかどうか、賃借人が将来不利とならないかを契約書で確認することが非常に重要です。
今回は不動産業界で働く私が、リースバック取引時の契約書の重要性と注意点について、どこよりも詳しく解説します。
リースバックとは・・
リースバック(leaseback)は、個人が所有する自宅を売却した後、同じ不動産を買い手からリース(賃貸)する取引のことを指します。
リースバックの利点としては、以下の2点です。
・売却により比較的短期間で現金を手に入れることができる。
・住み慣れた家から引越しをしなくても良い。
リースバックが利用されるケースは・・
リースバックは、引越しを伴う通常の売却が難しい場合に利用されます。
例えば、以下のような理由でリースバックが利用されています。
ランキング | 引越しが難しい理由 | 世帯 |
---|---|---|
第1位 | 高齢で引越しが難しい | 夫婦 |
第2位 | 子供が小学生で転校が難しい | ファミリー |
第3位 | 家族に要介護者・病人がいる | ファミリー |
第4位 | 自宅売却を周囲に知られたくない | 夫婦・ファミリー |
第5位 | 荷物が多く、引越しが難しい | 夫婦 |
リースバック利用者の検討理由や年齢は?
リースバックの検討理由としては、老後資金の確保が最も多くなっています。
60歳~65歳頃に定年退職で収入が減少し、毎月の住宅ローンの支払いが負担となりリースバックを利用して一括返済するケースもあります。
他には、事業資金の確保や月々のローン等の支払額の軽減のために、リースバックが活用されるケースも多くなっています。
ランキング | リースバックの検討理由 | 年齢層 |
---|---|---|
第1位 | 老後資金 | 70歳台~80歳台 |
第2位 | 住宅ローンの完済 | 60歳台(定年前後) |
第3位 | 事業資金 | 40歳台~50歳台 |
第4位 | 月々の返済額の軽減 | 40歳台~50歳台 |
第5位 | 教育資金 | 40歳台~50歳台 |
リースバックのデメリットは?
リースバックは住みながら自宅を売却できるというメリットがありますが、無視することができないデメリットもあります。
リースバックの主なデメリットとしては、以下の3点です。
・売却金額が安くなる
・長期で住めない賃貸借契約がある
・家賃が高い場合は将来払えなくなる
リースバックでの自宅売却は通常の売買価格の約70%と言われており、相場に比べかなり低い金額で売却することになります。
リースバックには普通賃貸借契約と定期賃貸借契約があり、定期賃貸借契約の場合は限られた年数しか住むことができません。
また、賃料が割高に設定されることもあるため、結果的に将来引越しをしなければならない場合もあります。
リースバック契約書とは何か?
リースバック契約書とは、不動産の所有者がその不動産を売却し、同時にその不動産を買主から借りるという内容を文書化したものです。
しかし、正式にリースバック契約書という名前の契約書はなく、不動産を売却する「売買契約書」と賃貸する「賃貸契約書」の2つの契約を合わせたものがリースバック契約書と言えます。
売買契約書・賃貸借契約書にはそれぞれ以下のような内容が記載されます。
売買契約書
- 当事者の情報: 売主と買主の氏名、住所、などの個人情報
- 物件情報: 売却する不動産の所在地や土地面積、建物の種類や構造、部屋数などの詳細な物件情報
- 売買条件: 売買価格や支払方法、頭金や残金の支払いスケジュール、引渡し日など、売買に関する条件
- 権利義務: 売主と買主の双方の権利と義務
- 責任と免責事項: 売主や買主の責任範囲や免責事項
- 解約条件: 契約の解除や違反に関する条件
- その他の条項: 契約の特約事項や追加条件、訴訟の管轄裁判所など
リースバックの概要に関しては、⑦の契約書の特約事項で賃料や賃貸期間等を記載をします。
賃貸借契約書
- 当事者の情報: 賃借人(売主)と賃貸人(買主)の氏名、住所、などの個人情報
- 物件情報: 賃借する不動産の所在地や部屋番号、広さ、建物の特徴など、物件に関する詳細情報
- 賃貸条件: 賃料や支払方法、支払日、更新条件、敷金や保証金の有無、退去に関する通知期間など、賃貸に関する条件
- 使用目的: 賃借人が物件を住宅として利用することやその他の使用目的や商業目的の制約がある場合も記載
- 権利と義務: 賃借人と賃貸人の双方の権利と義務
- 期間: 賃貸契約の開始日と終了日、契約更新に関する条件。リースバック契約の場合、売買契約との関係性
- 解約条件: 契約の解除や違反に関する条件
- その他の条項: 契約の特約事項やその他の重要な事項
賃貸借契約書においても、⑧の特約事項で重要な事項について記載をします。
リースバックにおける契約書の重要性とは?
リースバック取引における契約書は、売主にとって非常に重要な役割を果たします。
理由は以下の3点です。
1.リースバックは「売却して終わり」ではない
一般的な不動産取引では売買契約を行い、決済で売買代金の受領が完了すれば、取引終了となります。
買主は購入する不動産を内覧した上で購入し、売主も契約書に基づいた売買代金を受け取るだけのため、取引後に売主へトラブルが起こることは少ないと言えます。
しかし、リースバック契約の場合は売却した後、場合によっては10年以上の期間、賃貸借の関係が継続していくことになります。
長期的に関係性が続いていくため、以下のような契約当初は想定していなかった事態が起こる可能性があり、トラブルになることがあります。
・設備が壊れた
・賃貸人から退去の通知があった
・家賃の値上げの通知があった
リースバック取引のトラブル時に重要となるのが、契約内容が明記された契約書等の書面となります。
2.売主・買主(貸主・借主)間でのトラブルを防ぐ
リースバック取引においてトラブルになるのは、当事者間での「言った言わない」といった証拠が残っていないことが原因となることがあります。
例えば、定期賃貸借契約で締結した場合の退去に関するトラブルがあります。
定期賃貸借契約とは、予め賃貸借契約期間を定めて、期間満了の6カ月前に賃借人に通知することで貸主側から賃貸借契約を終了することが出来る契約です。
リースバック会社によっては、定期賃貸借契約でも再契約できる旨の説明を口頭で行っている場合があります。
しかし、定期借家契約書に借主の意向で再契約できる文言の記載がない場合、期間満了時に退去をめぐって「言った言わない」のトラブルに発展する場合があります。
特にリースバックの当初の買主が不動産を転売した場合、新たな所有者に対して契約時の口約束は主張出来なくなります
そもそも再契約が可能であれば、定期賃貸借契約である必要はない。なぜ普通賃貸契約で契約が出来ないのかを聞くことが大切だ
当事者間での解決が難しい場合は、裁判をすることになりますが、基本的に契約書面上で記載がない場合は証明することが出来ないため、主張が認められづらくなります。
将来的なトラブルを防ぐためにも、契約書は重要な役割を果たします。
3.契約書はリースバック後の身を守る書類
契約書類は、将来トラブルになった場合に証拠となるため、自分の身を守る書類となります。
トラブルが原因で裁判に発展する場合もありますが、裁判所は客観的な事実を元に判断することになるため、契約書に記載する内容は非常に重要と言えます。
リースバックの重要な点に関して、契約当事者によって違った解釈となる曖昧な内容の契約書であれば、後々トラブルに巻き込まれやすくなります。
自分の身を守るためにも契約書の内容はしっかりと確認し、重要な点に関して抜け漏れがないかを確認する必要があります。
では、具体的に売買契約書と賃貸借契約についてどのような点に注意して確認すべきかを解説します。
売買契約書類のチェックポイント
売買契約に関する書類は、主に以下の4つの書類があります。
・売買契約書
・重要事項説明書
・付帯設備表
・物件状況報告書
売買契約書
売買契約書は売買金額や手付金・残代金の支払い日等が記載されています。
売買契約書は、主に以下の4つの構成となっています。
・売買の目的物の表示(表題部)
・売買代金・支払日・支払い方法等
・契約条項
・特約事項
「不動産の表示」は不動産の所在地やマンション名等、売買不動産を特定するための項目が記載されています。
【チェックポイント】
・取引物件の表示に間違いがないか。
「売買代金や支払い方法についての項目」は、売買金額・手付金・残代金の支払い日が記載されています。
支払い方法については、買主が購入に当たって融資を組むかどうかが記載されています。
特に現金化を急いでいる場合には、残代金の支払い日の設定は重要です。
【チェックポイント】
・売買金額・手付金の額
・残代金の支払い日
・買主が融資を組むかどうか
売買契約書の条文は、売買契約における売主・買主間での決め事が第1条から記載されています。
契約書の条文を第1条から説明が行われることはなく、代わりに重要事項説明書で契約内容の説明が行われます。
全国宅地建物取引業協会連合会等の一般的な売買契約書ひな型が使用されている場合には、条文に関して細かく確認する必要ありませんが、オリジナルの書式となっている場合には、念のため第1条から確認した方が良いでしょう。
【チェックポイント】
・第1条から一通り目を通す。
・売主に不利となるような条文が入っていないか確認する。
特約事項とは、契約書の条文には記載が無い内容を盛り込んだり、契約書の条文内容と異なる契約内容が記載されます。
リースバックに関する内容は、特約事項に概要が記載されることが多くなっています。
特約事項には、リースバックに関して以下の内容が記載されます。
【リースバックに関する内容】
・賃借人名義
・賃料・敷金等
・賃貸方式(普通賃貸借契約又は定期賃貸借契約)
・買戻しに関する条件(買戻金額・買戻し期限等)
・賃貸中の設備保証に関する内容
リースバック以外の内容の特約事項としては、以下の内容が盛り込まれる場合があります。
・契約書の作成部数を1通にする。
・契約書の原本は売主・買主どちらが保管するか。
・契約印紙代の負担が折半か売主・買主どちらになるか。
・契約不適合責任の免責
・心理的瑕疵(事件・事故)や近隣トラブルがない旨
・契約に該当しない条文がある場合には、条文抹消の内容を記載。例:融資特約・土地が借地の場合の文言等
融資特約とは、買主の融資が承認とならなかった場合に、契約を白紙解約出来るものだ。大手リースバック会社が買主となる場合は融資特約を付けることはないぞ
融資特約があると買主から無条件で解約される可能性があるため、売主にとっては不利となる場合もあります
【チェックポイント】
・リースバックの内容が正しく記載されているか。
・特約の内容に気になる文言が入っていないか。
重要事項説明書
不動産仲介会社が仲介を行う不動産売買取引には、必ず重要事項説明書が作成されます。
売買契約書は主に不動産売買に関する売主・買主間での約束事が記載されているのに対して、重要事項説明書は取引を行う不動産についての調査内容が詳しく記載されています。
重要事項説明書は買主保護の意味が強いため、買主が宅建業者(プロ)で直接契約する場合には重要事項説明書が省かれることが多いぞ
買主が宅建免許を持つリースバック会社の場合は、重要事項説明書がなくても物件のことは調査しているはず、という前提ですね
【チェックポイント】
・重要事項説明書は仲介会社が作成するため、調査の内容の成否を確認する必要はない。
・売買契約書と共通している特約事項については、注意して確認が必要。
付帯設備表
付帯設備表は売却対象不動産の設備について記載する書類で、以下の内容が記載されます。
・キッチン・トイレ・お風呂等の設備の有無
・設備不良の有無
賃貸中の設備の修復義務が貸主にある場合でも、すでに故障しているものに関しては保証対象外となることが多い為、買主に告知をする必要があります。
事実と異なる内容を告知した場合は、賃貸中の修繕対応の際にトラブルになる可能性もあるぞ
【チェックポイント】
・現在故障している設備や不具合のある設備がないか。
・過去に改装した履歴がある場合にはその内容も記載。
物件状況報告書
物件状況告知書は、売買対象物件に関して売主が知っていることを買主に告知を行う書類です。
例えば室内等で過去時に事件・事故等があった場合には、不動産の価値に影響があるため、買主に告知する必要があります。
分からない箇所については、不明と記載します。
具体的には、以下のような内容を告知します。
・雨漏り・シロアリの害
・給排水管の故障
・火災
・電波障害
・浸水の被害
・騒音・振動・臭気
・過去に室内で起きた事件・事故・迷惑行為
物件状況告知書は住んでいる人にしか分からない内容もあり、実際と異なる告知をしていた場合は、後々トラブルになることもあるぞ
【チェックポイント】
・記載する内容が事実に基づく内容となっているか。
賃貸借契約書類のチェックポイント
リースバック時の賃貸借契約関係の書類は、以下の3点となっています。
・賃貸借契約書
・家賃保証契約書
・火災保険申込書
賃貸借契約書
賃貸借契約書は家賃や敷金、契約期間に関して記載された書類です。
リースバック時でも、一般的な賃貸借契約書のひな型が使われることが一般的です。
大きく以下の4つの項目を確認しましょう。
賃貸借契約には普通賃貸借契約と定期賃貸借契約の2種類があります。
定期賃貸借契約の場合には、契約書の表紙や最初の部分に定期賃貸借契約の表示がされるため、必ず確認をしましょう。
【チェックポイント】
・普通賃貸借契約と定期賃貸借契約どちらの内容で記載されているか
表題部には、賃貸借契約における基本的な内容が記載されています。
・貸主・借主の氏名
・賃貸借契約の対象不動産の所在地
・賃貸借契約期間
・賃料
・敷金等
・家賃保証会社の名称
【チェックポイント】
・賃料や敷金等、記載されている内容に誤りがないか。
賃貸借契約における貸主・借主間での決め事について第1条から記載されています。
以下は賃貸借契約書条文の一例です。
・賃貸借契約の更新方法
・使用目的
・賃料の改定
・修繕等に関する記載
・契約の解除に関する記載
・退去に関する記載
リースバックにおいては、賃貸中の住戸内の設備補修義務は貸主が負わないことが多くなっているため(一般的な賃貸住宅では設備は貸主に修理する義務がある)、その旨記載されることが多くなっています。
賃料の改定の文言については、通常の賃貸と同様にリースバックの賃貸借契約書にも入っていることが一般的です。
貸主が賃料を将来上げるつもりはなくても、将来的な物価や周辺家賃相場の変動があるため、賃料を保証することが現実的に難しいぞ
【チェックポイント】
・第1条から順番に目を通し、気になる条文が入っていないか。
契約書条文に記載が無い内容や条文と異なる内容について、貸主・借主間での決め事について記載します。
説明を受けていない内容で、借主にとって不利になる内容が記載がないかどうか確認をしましょう
【チェックポイント】
・担当者から聞いてない内容や借主に不利になる特約事項が記載されていないか。
家賃保証契約書
最近では賃貸を借りる場合に、家賃保証会社に加入することが一般的です。
リースバックにおいても、家賃保証会社による保証が契約の条件となっていることが多くなっています。
事前に家賃保証に関する審査を行い、承認となった場合に保証契約書が作成され、賃貸借契約書と同時に記入します。
家賃保証契約書には、保証対象の賃料月額・保証料の金額・支払い方法などが記載されています。
【チェックポイント】
・保証料の金額に間違いはないか
・保証料の年払いの有無
火災保険申込書
持ち家から賃貸へ変わるタイミングで、所有者として加入している火災保険は無効となるため、新たに賃貸用の火災保険に切り替えが必要となります。
賃貸借契約では、賃借人が火災保険に加入することが義務付けられていることが多くなっています。
【チェックポイント】
・保証開始日が賃貸借契約開始日(売買決済日)となっているか。
売買契約書・賃貸借契約書は誰が作成する?
売買契約書
リースバック取引の際の売買契約契約は不動産仲介会社が作成することが一般的です。
不動産仲介会社を通さずに、直接リースバック会社と取引を行う場合は、買主であるリースバック会社が売買契約書を作成します。
不動産売買における重要事項説明書は、リースバック会社と直接契約する場合には省略されることもあります。
賃貸借契約書
リースバック取引に不動産仲介会社が仲介に入る場合でも、売買契約に対してのみ仲介業務を行うことが一般的です。
賃貸借契約に関しては、直接リースバック会社と行うため、リースバック会社が作成することが作成することになります。
賃貸借契約書の作成も仲介会社が行うと賃貸仲介業務も行うことになり、賃貸の仲介手数料が必要となるぞ
リースバック取引は不動産仲介会社による取引が理想
リースバック取引を行う場合は、不動産仲介会社による取引をすることがおすすめです。
特にリースバックの取引経験が豊富な仲介会社に依頼するようにしましょう。
リースバック取引を仲介会社に依頼すべき理由は2点あります。
リースバックの取引経験の豊富な会社であれば、契約書のチェック等に関してアドバイスを貰いながら進めることができる。
リースバック取引でトラブルになった際には、中立的な立場である仲介会社に間に入ってもらい、話し合いをすることが可能になります。
不動産仲介会社を介さない不動産取引でトラブルが発生した場合、相手が契約の当事者でもあるため、お互いの主張が平行線となることがあります。
リースバック会社と直接契約を行う場合には、不動産仲介手数料が不要といった金銭的なメリットはありますが、トラブルのない取引を行う場合は不動産仲介会社による取引が理想と言えます。
リースバック専門の仲介会社のパイオニアとして株式会社応援宣言があり、「家まもルーノ」というサイトで査定の依頼ができるぞ
リースバック専門の不動産仲介会社
・リースバック一括査定のパイオニア
・担当者は1人で負担が少ない!
・全国47都道府県の対応が可能
・査定依頼は完全無料!
まとめ
最後にまとめです。
リースバックにおける契約書の重要性とチェックポイントについて解説してきました。
リースバック契約とは、自宅を売却した後も現在の自宅に住み続ける手法で、「売買契約」と「賃貸借契約」の2つの契約から成り立っています。
売主にとってリースバック取引は、「売ったら終わりの取引」ではなく住み続けるという点で、将来に渡って影響を与える取引となるため、売買契約書・賃貸借契約書の確認は将来身を守る上でも非常に重要となります。
特に、長期で住み続けたい人にとっては、住み続けることが出来る賃貸借契約書になっているかどうかは、必ず確認すべきポイントとなります。
リースバック取引は、リースバック会社と直接契約することもできますが、将来的なトラブルを回避し、より安全と取引するために不動産仲介会社による仲介取引とすることが理想です。