「60歳で会社を定年になった後に、住宅ローンが10年も残っている」
「収入が激減した後、これまで通り住宅ローンを払っていけるかどうか不安」
このような問題に直面されている家庭は増えています。
定年後に将来の生活の資金確保の方法としてリースバックが利用されていますが、同時に不動産担保ローンやリバースモーゲージを検討する人も多くなっています。
今回は不動産業界歴18年の私が、リースバック・不動担保ローン・リバースモーゲージに違いについて分かり易く解説します。
本授業のレベルsection
自宅を活用した資金調達方法として、リースバック以外に不動産担保ローンやリバースモーゲージがあると聞きましたが、それぞれの違いが分かりません。
まずはリースバック・リバースモーゲージ・不動産担保ローンの違いとそれぞれのポイントについて説明しよう。
- リースバック・不動産担保ローン・リバースモーゲージの違いと特徴について理解ができます。
- 不動産担保ローンやリバースモーゲージに比べてリースバックが利用し易い理由が分かります。
リースバック・不動産担保ローン・リバースモーゲージの共通点や違いは
リースバック・不動産担保ローン・リバースモーゲージの共通している点は・・
リースバック・不動産担保ローン・リバースモーゲージに共通している点は、今の家から引越しすることなく、住み続けながら資金を確保できるという点です。
・高齢になって引越しするのが大変
・子供の小学校区を変えたくなくない
・同居の家族に介護する人がいて引越しが困難
等、資金には困っていても家庭の状況で自宅の売却や引越しが難しいケースがあります。
そんな時に利用できる方法として、リースバック・不動産担保ローン・リバースモーゲージがあります。
違いは何か
それぞれの商品の特徴と違いついて簡単に説明します。大きな違いとしては、以下の点です。
リースバック | 不動産担保ローン | リバースモーゲージ | |
---|---|---|---|
売却か融資か | 売却 | 融資 | 融資 |
・自宅を売却するのがリースバック
・お金を借りるのが不動産担保ローン・リバースモーゲージ
リースバックは自宅を売却することになるため所有権を失う一方、不動産担保ローンとリバースモーゲージは自宅を担保にお金を借りるだけなので、所有権を失うことはありません。
所有権を移転させるのがリースバック。移転させないのがリバースモーゲージ・不動産担保ローンですね!
それぞれの方法について、もう少し詳しく確認していきましょう。
リースバック
自宅を売却して、売却後は賃貸として家賃を払いながら今の住まいに住み続ける方法。不動産会社や金融系の会社が提供している。
売却資金を一括で受け取れる半面、毎月の家賃が発生する。
売買金額や設定される家賃については、リースバックを提供する会社によって大きく異なる。
不動産担保ローン
自宅を担保にお金を借りる方法。
銀行や預金等を行わないノンバンク系の金融機関が提供している。借入可能額・返済期間・借入金利は所得や担保に入れるマンションの立地や築年数によっても異なる。
リバースモーゲージ
自宅を担保にお金を借りる方法。銀行等の金融機関が提供している。
不動産担保ローンは毎月利息と元金を合わせた額を支払っていくことになりますが、リバースモーゲージは毎月利息のみを支払えば良いため毎月の支払金額が低くなるのが特徴です。
融資をした銀行は、担保に入れた不動産の所有者が死亡した後に不動産を売却し資金を回収。
比較表
リースバック・不動産担保ローン・リバースモーゲージの特徴をまとめると以下のようになります。
リースバック | 不動産担保ローン | リバースモーゲージ | |
---|---|---|---|
引越し | 不要 | 不要 | 不要 |
住む権利 | 賃借権 | 所有権 | 所有権 |
資金調達額 | |||
融資審査 | 無 | 有 | 有 |
対応住宅 | マンション・戸建て | マンション・戸建て | 主に戸建て |
所有権 | 移転(売却) | 移転しない(融資) | 移転しない(融資) |
自宅の担保 | ー | 有 | 有 |
毎月の支払い | 家賃 | 金利+元金 | 金利のみ |
提供法人 | 不動産会社等 | 銀行等 | 銀行 |
う~ん。違いは分かりましたけど、どれが良いかいまいちわかりません。
利用のし易さという点で言えば、リースバックが最もハードルが低いと言える。その理由について解説するぞ
リースバックが利用し易い理由
借入審査が不要
リースバック・不動産担保ローン・リバースモーゲージの中で、最も利用のハードルが低いのがリースバックです。
リースバックは自宅を売却した後で賃貸で住み続ける訳ですが、基本的は自宅を売却出来れば良いということになります。
一方、不動産担保ローンとリバースモーゲージは住宅ローンと同様に借入になりますので借入の審査があります。
厳密には賃貸の保証審査があるが、借入の審査程厳しいものではない
借入の審査には、以下ような項目があります。
・返済能力
・他の借入状況
・過去借入等の信用情報
これらの審査基準を元に融資を行うかどうかを判断するため、手続きには時間を要します。結果的に融資を受けられず、検討不可となる場合もあります。
本人の意志だけで決められる
リースバックは自宅の売却のとなるため、所有者名義が本人であれば、本人の意志だけで決めることが出来ます。
リバースモーゲージの場合は借入の審査の他にも、以下のような条件が必要となる場合があります。
・相続人全員の同意が必要
・同居家族がいない
リバースモーゲージは借入れをした本人が亡くなった場合に自宅を売却し借入の返済に充てる為、相続人や同居家族がいると債務者が死亡した後の売却が困難になることがあるためです。
そのため、本人の意志だけで決められないことがあるのです。
債務者が亡くなった場合は、相続人が全額返済を行うか担保物件を売却して借入返済に充てるかの2択になることが多いぞ
調達できる資金が多い
リースバックは調達できる資金が多いという点で、不動産担保ローン・リバースモーゲージと比べて利用がしやすいと言えます。
理由は、不動産担保ローンとリバースモーゲージは時価と比べてかなり低い「担保評価」を基準に融資額を決定している一方で、リースバックは、実際に取引されている時価を基準に売買金額を決めているからです。
時価と担保評価の違いは以下の通りです。
時 価・・・不動産が実際に取引されている価格
担保評価・・・不動産を担保に入れて融資を行う場合の銀行独自の評価額
※融資は長期的に行うものなので、時価(現在の取引価格)では計算せず、築年数や土地評価額を参考に算出されます。担保評価は時価よりも低くなることが多い。
銀行は融資した人が支払いを出来なくなった場合、担保に入れた不動産を売却することで融資額を回収します。
銀行は不動産の価値以上に融資を行えば、将来売却しても回収できない可能性がある。いつでも確実に回収出来る額を担保評価としているぞ
マンションは担保評価が低くなる
マンションの場合は、一戸建てに比べて不動産担保ローンやリバースモーゲージの利用が難しいと言われています。
理由は2つあります。
1つ目の理由が、土地全体をマンション居住者全員で持分を共有しているため、一戸建てと比べると1世帯当たりの土地の持分は少なくなるからです。
一戸建ての場合、土地の評価額が2,000万円であれば自分一人の持ち分です。マンションであれば土地が5億でも100世帯で住んでいる場合は5億÷100世帯で500万円程になります。
さらにマンションの場合は、土地だけを個別に売ることが出来ないため、戸建てと比べて評価が厳しくなります。
2つ目の理由は、将来建物が老朽化ていくことを織り込むことで担保評価が低く見積もられるからです。
一般的にリバースモーゲージ等長期の融資となる場合は、将来の建物の老朽化分を計算に入れるため、建物の評価額が低くなる傾向があります。
マンションは土地が共有持分で建物の評価割合が高いことから、建物の評価額が低くなれば借入金額もその分低くなります。
一戸建てとマンションのそれぞれの減価償却(建物価値が0となる)の期間は以下の通りです。
一戸建ての場合でも建物評価が0円とみなし、土地の評価を基準に借入金額を決めている場合が多いぞ
土地に比べて建物の評価割合が多いマンションの場合は、借入額がより厳しくなるということですね
実際の事例でシミュレーション
ここでは実際のケースを使って、リースバック・不動産担保ローン・リバースモーゲージを考えてみます。大体のイメージをするためのものですので、あくまで参考として確認して下さい。
年齢 65歳
家族構成 夫婦
居住地 都市部近郊
住居形態 マンション(築25年)
住宅ローン残高 1,000万円(75歳完済予定)
マンション時価 2,500万円
住宅ローン | 月々 12万円 |
管理費・修繕積立金 | 月々 2.5万円 |
固定資産税 | 年間 12万円 |
現在の住宅ローンの残年数が10年。住宅に対して毎月必要なお金は、固定資産税を含めると15.5万円となっています。
リースバックを検討する場合
売買金額
リースバックの場合、売買価格は時価を基準に査定をします。今回はAさんのマンション時価は2,500万円です。
時価とは2,500万円であれば、一般の人に売出をして売却出来る金額ということです。
リースバック時の売買金額は時価の70%前後となることから、今回の場合は2,500万円×70%=1,750万円前後が売買金額となります。
家賃
リースバック後の家賃設定ですが、年間の家賃が売買金額の15分の1から10分の1程度に設定されることが多くなっています。
年間家賃が売買代金の15分の1の場合、1,750万円÷15=116万円。116万円÷12か月で9.6万円
年間家賃が売買代金の10分の1の場合、1,750万円÷10=175万円。175万円÷12か月で14.5万円
家賃設定は結構変わってくるんですね
会社によって利回り対する考え方が違うため家賃にはかなり差があるぞ。売買金額・家賃の決まり方については、以下の授業でも解説している
1,750万円前後
9.6万円~14.5万円
Aさんはリースバックをすることで手放すことになりましたが、毎月の住居負担は15.5万円から9.6万円まで減らせる可能性があります。
また、住宅ローンを返済した後の手残り資金として700万円程残せる計算となります。
不動産担保ローンを検討する場合
融資可能額
不動産担保ローンの場合、融資可能額の基準は不動産の担保評価額となります。
例えば、2,500万円で取引されるマンションでも評価額は以下のように銀行によって異なります。
A銀行の担保評価額:1,300万円
B銀行の担保評価額:1,200万円
C銀行の担保評価額:1,000万円
上記の通り不動産担保評価額は銀行・金融機関によって様々ですが、実際の融資額は担保評価額に対して70%前後となることになりさらに少なくなります。
A銀行の担保評価額:1,300万円×70%=910万円
B銀行の担保評価額:1,200万円×70%=840万円
C銀行の担保評価額:1,000万円×70%=700万円
マンションの担保評価額については、以下の点から評価額が低くなる傾向があります。
・土地は共有持分となるため、土地の評価額は低くなる。
・経年劣化により、建物の担保評価額は低くなる。
マンションの場合、時価が2,500万円であったとしても、担保評価額を基準に算出された融資額は1,000万円にも満たないという事例は珍しくありません。
住宅ローンが残っている場合
住宅ローンが残っている場合には、不動産担保ローンの利用は難しい場合が多くなります。
理由は、不動産担保ローンは第2抵当権者となるため将来の債権回収が困難になる可能性が高いからです。
第2抵当権とは・・
通常住宅ローンは債権回収を担保するため、借入物件に抵当権を設定します。
1番目の担保設定のことを「第1抵当権」と呼ばれ、住宅ローンがこれに当たります。もし借主が住宅ローンを支払えなくなった場合には、担保物件を売却し他の債権よりも優先的に売却額から債権の回収ができます。
これに対し、第1抵当権者の後に設定される担保権が「第2抵当権」です。
第2抵当権者は第1抵当権者が債権を回収した後でしか債権を回収することが出来ないため、債権を回収出来ないリスクが高くなります。
現在Aさんには住宅ローンの残債が残っており、自宅を担保(抵当権)に入れている状態です。
住宅ローンが残った状態で、新たに担保を設定して借入することは難しいと考えられます。
仮に住宅ローンが残っている状態で不動産担保ローンを利用することが出来たとしても、住宅ローンの残債と融資可能額の差額しか借入ができません。
借入条件
不動産担保ローンは融資になりますので、一定の収入があることが必要です。
返済期間は70歳~75歳時点での完済を基準にしている金融機関が多いため、Aさんの場合は返済期間5年~10年が目安となります。
借入金利については、1%台~9%と幅広く、金融機関によって異なります。
借入金利ってかなり幅広いんですね!
本人の年収や年齢によって、返済リスクが異なるためだ。担保とするマンションの評価額によっても金利は変動する。
参考:金利3.5%(変動金利) 借入額200万円 返済年数10年の場合の月々返済額は19,777円。
・マンションの担保評価額は低くなる。
・住宅ローンの残債がある場合は、基本的に利用が難しい。
・返済年数や金利は現在の年齢や借入額等によって異なる。
Aさんの場合は、融資の相談をした結果住宅ローンの借入1,000万円に対して融資可能額が下回ったため、不動産担保ローンの融資を受けることができませんでした。
リバースモーゲージを検討する場合
借入可能額
リバースモーゲージは不動産の所有者が死亡した後に、銀行が担保に入れた不動産を売却して資金を回収する方法です。
しかし、銀行は所有者がいつ亡くなるかは予想ができません。
近年平均年齢は伸びており、リバースモーゲージを利用した60歳の人が100歳まで生きる可能性もあります。
そのため、銀行としては融資をした方がいつ亡くなったとしても不動産を売却して回収できるような融資額にする必要があります。
建物は年々古くなり法定耐久年数経過後は評価額が0となるため、融資を担保するために銀行は土地価格を基準に考える必要があります。
マンションは土地の割合が少なく共有持分となるため、リバースモーゲージの融資額も低くなります。
Aさんのマンションでは土地の評価額が500万円と住宅ローンの残債1,000万円を下回っているため、リバースモーゲージの利用が出来ないという結果になりました。
リバースモーゲージという商品はもともと一戸建てを想定して設計されているため、マンションでは利用できないことも多くなっています。
リバースモーゲージはマンションには不向きなんですね。
借入条件
リバースモーゲージにはを利用するには年齢が50歳以上といった制限があります。
基本的には中高年以上を対象にした商品となっています。金利は2%台の変動金利を採用している金融機関が多くなっています。
また、事前に子供等の相続人全員の同意を得ることが必要な場合や、同居人がいないといった条件が必要な場合あります。
どうして、相続人の同意が必要なのですか。
銀行からすればいざ売却して回収する時に相続人や同居人がいては売却に支障があるからだ。
・戸建てを対象に設計されているため、マンションでは利用できないケースが多い。
・土地を担保に融資を行う性質上、土地の割合が少ないマンションは融資額が少なくなる。
Aさんはリバースモーゲージの商品性には興味を持っていましたが、色々調べた結果マンションでは利用が難しいことを知り、諦めることになりました。
結論
今回の事例でAさんは、所有権を移転せずに家計を改善できる方法として、不動産担保ローンやリバースモーゲージも検討ましたが、住宅ローンの残債があるため利用出来ませんでした。
一方で所有権を移転することにはなりましたが、リースバックを利用することで住宅ローンを完済し月々の支払いも抑えることが出来ました。
住宅ローンを返済した後でも、売却資金が残ったため貯蓄に回すことが出来ました。
マンション居住者が不動産担保ローンやリバースモーゲージと比べてリースバックを利用することが多い理由は、リースバックの条件が良いというよりは、リースバックしか選択肢がないというケースが多くなっています。
これは、私が現場でリースバックを検討する人からもよく耳にしていることです。
まとめ
リースバックと不動産担保ローン・リバースモーゲージの最も大きな違いは、自宅を売却するか融資を組むかです。
リースバックは自宅を売却して資金を得る方法となるため、所有権を手放すことになり家賃を支払う必要があります。
一方、不動産担保ローンとリバースモーゲージは融資になります。
リバースモーゲージは毎月の支払いが金利のみとなるため、借入額に対して毎月の負担が抑えられる点が特徴ですが、対象が一戸建てのみとなっている場合が多く、マンションでは利用できないことも多いです
不動産担保ローンやリバースモーゲージは、住宅ローンが残っている場合は重ねて融資を組むことが難しいため、結果的にリースバックを選ぶ人が多くなっています。
リースバックと並行して不動産担保ローンとリバースモーゲージを検討する場合は利用できる条件等を事前に確認するようにしましょう。